千円の代償



 いろいろあって、島川順作は二つ年下の後輩、峰岸恭一と付き合うことになった。

 太縁眼鏡をかけた順作は、やせた貧相な身体に飾り気のない短い髪、病的なまでに白い肌と、あまり魅力的な容姿をしていない。むしろ、理系のオタクの典型的な容姿の特徴をほぼ完璧に近い形で兼ね添えていた。まったくさっぱり冴えない容貌だ、と順作自身も痛いほど良くわかっている。
 対して、峰岸恭一は、脱色して派手な色になった髪と、とがったファッションの剣呑な目つきの男で、とてもとても真面目には見えない姿をしていた。いわゆるひねくれた道を突き進んできましたと主張せんばかりの──簡単に言えば、ヤンキーにしか見えない姿をしている。
 ただ、ある意味では、恭一は魅力的な姿をしていると思う。一般的な言い方をするなら、恭一は格好いい。そんな彼が、垢抜けず冴えない順作と付き合っていること自体が不可解だ。……順作はそう思う。
 でも彼は──自分を好きだというので──あれこれと尋ねられず、関係を続けていた。勿論、嫌々続けているわけではないから、いたって普通の……普通というか、まあ、普通の関係だ。

『今、講義終わった? じゃあ、食堂の前にいろよ。俺も行く』

 携帯から、恭一の声が聞こえる。
 その声はぶっきらぼうにも聞こえるが──実際の彼は確かにぶっきらぼうなところがあるが──冷たく乱暴な男ではない。
 順作は電話口でうなずいた。

「あ、ああ、わ、分かった」

 どもり気味なのは、緊張しているせいだ。
 どうもだめだ。彼の声を耳元で聞くと、挙動不審になってしまう。
 順作は通話を切って、食堂前に向かうべく、大学講義室の席を立った。

「あ」

 食堂の前まで来ると、恭一の友人である村井晴喜に出くわした。
 恭一に負けず劣らずとがった印象の彼は、恭一と違ってわりに開放的でせつな的だ。行儀の悪いこともいくつかしてきたらしい、と恭一から聞いたことがある。
 そして、この晴喜は、順作と恭一が付き合っていることを知っている。

「あーあー、順作じゃん。あ、もしかして、恭一と会う?」
「あ、ああ、その予定だが……」
「じゃあさあ、ちょっと渡しておいて欲しいもんがあんだけど」

 彼は腰履きのジーンズの尻ポケットから、よれた千円札を出した。

「千円。借りてたんだよね、恭一に。返しといて」
「あ、ああ、分かった」

 気楽な感じで晴喜は千円を渡してきた。落とさないようにしっかりと受け取ろうとすると、晴喜は少し笑って順作の手首をつかんだ。








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