ミルク・キャンディー・イン・コーヒー
マスターの指は、節くれだっている。
左手の、平たい親指の生え際に、てん、と白い点がひとつ、ついているのを知っている。たぶん、生まれつきのなにかなんだろう。自分だって、生まれたときから、左の足の親指に妙な痣がある。
それで、以前、彼のそれを見るともなく眺めていたら、彼は、死に別れて随分経つんですけどね、と言った。
そう言われて、彼の左手の薬指に、古びたリングが嵌っているのに気がついた。
恋女房ってやつですか、とからかうように尋ねたら、いやいやそんなんじゃありませんよ、とマスターは少し恥ずかしそうに笑った。
そのとき、ああ、あの節くれだった指を持っている人は、こんな人だったんだな、と思った。
そして、それで、彼のことが好きになってしまったな、と頬杖をついた。