青い花の夜の



「あー……」

 ウェザイルはため息をついて、テーブルに突っ伏した。

「ウェザイル様」

 ベラムの様子を窺う声が降ってくる。
 ベラムもまた、シメオン家のためにとクリストン家との話をウェザイルに薦めるのだろう。

 ──これは想像以上にきついな。

 ウェザイルはテーブルに顔を伏せたまま、引きつり笑いをした。
 しかし、決意した。覚悟した。由緒正しいシメオン家の男として、義務は果たす。今のところ、見合いを果たすことが自分の責務だ。
 ウェザイルはテーブルにあごをついて、視線だけでベラムを見た。

 ──本当、ベラムは変わらないな。

 何で昔から変わらないんだ、と腹立たしい気持ちになる。いっそのこと、超性格が悪くなるか、人相が変わってくれてればいい。そうすれば、自分だってこんなにあれこれ物思いしない。

「ベラムさ……」
「はい、なんでしょう」

 小首を傾げて、こちらを注視する。ああ、これも昔からの癖だ。話を聞くとき、わずかに首を傾げる。
 ウェザイルはあいまいに目をそらした。

「ベラムさ、ちょっと性格悪くなってくれない?」
「は……」
「えーと、うん。ほら。屋敷の金使い込むとか、メイドに性的な嫌がらせ発言とか……は、さすがにメイドがかわいそうだからアレだけど。あ、ほら、おれに対して、なんかこう、あるじゃん? 性格悪いこと」
「……ウェザイル様、何をおっしゃっているのか分からないのですが……お屋敷の金子に手をつけるのは、性格がどうというより犯罪ではありませんか……」

 ベラムが理解に苦しむといった顔をする。確かにそうだよな、とウェザイルは胸中でひとりごちる。

「それより、ウェザイル様は、わたくしの話を聞いていらっしゃいますか。クリストン家とのお話のほうですが」
「ああ、うん。うん、聞いた。聞いてた」

 ウェザイルは再び深いため息をついた。

「今回のこういったことは、ウェザイル様も初めてのことですので、お気が進まないのは分かりますが……」
「いや、うん」

 ウェザイルは眉をかすかにあげて、安易に笑った。

「確かにまあ、気が進まないけど、どう言ったところで一度は会わないと無理でしょ。相手の家のメンツもあるし」
「それはそうなのですが……」
「面倒くさいけど仕方ないねえ。超面倒くさいけど」

 面倒くさい面倒くさいと連呼すると、さすがのベラムも顔をしかめた。

「ウェザイル様、お話の件に関して前向きになってくださったのはこのベラムも嬉しく思いますが、その当日に面倒くさいと口にされぬよう、お気をつけください……」
「うん、面倒くさい」
「ウェザイル様……」

 ウェザイルの返事に、ベラムがとてもいい笑顔になった。
 眼鏡の奥から凄みのある視線を向けられて、ウェザイルは「はいすみませんでした」と素直に頭を下げた。
 ベラムはあきれ返った大きなため息をつく。

「口うるさくはしたくありませんが、ウェザイル様はもう少し、シメオン家のお方として、その砕けた物言いをお改めに……」
「ベラムの前だけだからいいじゃーん」

 間違っても、この調子で兄には喋りかけられない。他の使用人に対しても同じだ。この気安い喋り方は、彼相手だけなのに。
 ……実に涙ぐましいアピールだと、自分でも思う。

「……あのさ、ベラム」

 ウェザイルはテーブルに頬杖ついて、そばに立つベラムを見上げた。
 仕切りなおすような口調になったウェザイルに気づいて、ベラムはいつもの小首を傾げる癖をした。
 それを見て、ウェザイルはまた安易に笑った。つい、往生際の悪い質問をしてみてしまう。


「ベラムは、おれに結婚してほしい?」

to be contonued.
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