どうともならない
「それがさー、ほんっと、美人でさあー。いつもはきちんきちんとしてるのに、俺がぎゅーってすると途端に真っ赤になっちゃって、これがまたかわいいのなんの」
ウェザイル=シメオンは、友人ジョルジュ=マーベックの話を半分死んだ目で聞いていた。
ここはシメオン家ウェザイルの私室だ。昼下がりのこののどかな日に、男二人どうして面を付きあわせて世間話をしているのか。しかも、シメオン家といえば、貿易の街ティンバルトンでは知らぬものがいないというほど影響力の持った家柄だ。
それなのに、特に派手な遊びをするわけでもなく、部屋にこもって友人と世間話……それ自体は穏やかでいいことだとは思うが、問題はさっきから延々と続いている友人ジョルジュの話である。
──話というか、これはノロケ話だ。
友人ジョルジュは、マーフェット家の嫡男で、恐らくは将来、マーフェット家を継ぐだろうと噂されている。このマーベック家というのは、ウェザイルのシメオン家と外戚関係で、ティンバルトンの街においては、シメオン家に次ぐ有力家ではある。まあ、早い話が貴公子と言っても差し支えはない。ウェザイルも一応のところは貴公子の端くれだが。
それでまあ、このジョルジュは先日、若くてきれいでかわいい嫁をもらった。政略的な背景がまったくない恋愛結婚かといえばそうではないのだが、政略結婚だろうが恋愛結婚だろうが、ジョルジュは新妻リーザにそれはもう骨抜きにされていた。簡単に言えば、愛妻家を通り越してバカになった。
──人って変わるな……。
ウェザイルは半笑いでジョルジュを見つめた。
結婚する前までは、このジョルジュはかなりの遊び人だったのだ。遊び人というよりは、女にだらしがなかった。見てくれはとてもいいから、相手には事欠かなかったのがよくなかったのだろう。女にだらしないというか、いわゆる恋人の類を作らずにセックスだけを楽しむ遊びを続けていた。それでも相手は選んで遊んでいたから、下半身がだらしないということはないのだろうが──
そんな彼が、結婚して、すっぱりと遊び人を卒業した。卒業して、バカ愛妻家に宗旨替えだ。