どうともならない



「やっぱり種族柄なのか? あの色気はひどいな」

 ひどいとは散々な物言いだ。だが、ベラムの色気がたちの悪いものだということは、ウェザイルも全面的に認める。あの色気に関しては、本当にどうしようもない。

 種族柄、というのは、ベラムがもっとも数が多いとされている人間族ではなく、少数種族のひとつに数えられる、エル・ルタ族であることを指している。エル・ルタ族にはいろいろ歴史があるが、まあ、早い話が、彼の種族は先天的に性的な魅力を持ち合わせているという認識で間違いがない。

 ジョルジュの指摘の通りに、ベラムは五十を過ぎる年齢になってもなお、その色気が衰えることがない。

 ウェザイルは、ひそかにほっとした。
 ベラムに色気があるということは、自分以外の者が見てもそうだったのだ。初老の執事長に、ともあればいちいちくらくらしているのは、自分だけなのではないかと思っていた。

 ──ああ、自分はまだ大丈夫だ。まだ。そんなに追い詰められてない。

「いやー、俺に男の趣味がなくて、本当に良かったよ。そっちの気があったら、口説いてたかもな」

 ジョルジュの言葉に、ウェザイルはぎょっとした。しかし、ジョルジュはからからと笑っている──軽い気持ちで言った言葉だということは明らかだ。
 ……さっきから、ジョルジュの一言一言に一喜一憂していて自分がひどく情けない。

「しかしなー……どうなんだろうな、そっちの気がないって思ってても、ある日突然、恋に落ちるってあるからな……」
「お、おい」
「いや、この俺が、かわいいリーザを横にして他にうつつ抜かすわけないだろ。……なんだよ、おまえ、ベラムに手を出されるのがそんなに嫌なわけか」
「そ、それはそうに決まってる、だろう……、ベラムはうちの大切な執事長だからな……、それだけなんだけどな……」

 妙な言い回しになってしまったが、ジョルジュはその不自然さに気がつかなかったようだった。おかしそうに背を丸めて笑う。

「なんだよ、どっちが世話係かわかんないな。安心していいぞ。俺はベラムを口説くつもりはないし、マーベック家に引き抜くつもりもない。……というか、引き抜こうとしたって、あのベラムは絶対なびかないだろ。シメオン家に忠誠誓ってる勢いだから」
「……そ、そうか」

 ウェザイルはぎこちなく笑いながら、椅子に座りなおした。……本当に、自分が情けない。

「さっきのは、俺のお父上のことだよ。あの人なー……あんな甘い二枚目の癖して、ある日突然、アレだよ」







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