どうともならない
「ひょっとして、おまえ、すでに付き合ってる女がいるのか? 隠してる?」
ジョルジュの質問に、ウェザイルは反射的に笑った。
「そんな器用じゃない。隠すのなんて到底無理だし、いたら、まあ、打ち明けてるよ」
「お、嬉しいねえ。今、友情ってやつを感じたよ」
ジョルジュは頬杖をやめて、足を組んだ。
「じゃあ、おまえにかわいい恋人が出来たら、今の俺と同じようにノロケていいぞ。聞いてやろう」
「……ああ、まあ、……そうだな」
ウェザイルは浮かない顔をして、あいまいな返事をする。
「まあ、早く俺みたいに身を固めることだよ。本当に感覚が違う。こう、しっかりしないとっていうさ。……それに、早く、ベラムを安心させてやれよ。彼、おまえの育ての親みたいなもんじゃないか」
「…………」
不意打ちの発言に、ウェザイルは言葉に詰まった。思わず表情が変わったのが、自分でもよく分かる。
ベラム──ベラム=ノードウッチ。
彼は、シメオン家に昔から仕える執事だ。ジョルジュの言う“育ての親みたいなもの”というのは、彼がウェザイルの世話係を務めていた時期があるからだ。世話係の任を離れ、執事から執事長に肩書きが変わってもなお、ウェザイルにとってベラムはもっとも特別な位置にいる使用人だった。それはジョルジュも知っているから、「早く安心させてやれ」という発言が出るのだろう。
「しかしなあ……この間、ベラムを見かけたけど、相変わらずあれだな」
ジョルジュはマイペースに話を続ける。
思わず表情を変えてしまったウェザイルにはまったく気がついていない様子だった。内心、ほっと安堵する。
「今時、あんないかにも執事ですっていうスタイルの使用人も少ないぞ。うちの使用人なんかわりとラフな格好してるから、なおさらな。ベラムは白手袋と髭だろ。いかにも執事」
言われて、ウェザイルは、ベラムを思い浮かべる。
小柄な体格に、きっちりと整えた髪と手入れされた髭。カラーと白手袋は、よっぽどの事情がないかぎり取らない。主筋であるウェザイルがいる場では、椅子に座ることすらしない。飲食などもってのほかだ。
そこまで思い浮かべて、無意識にため息が出た。
ベラムは、本当に真面目で忠実なのだ。ウェザイルは、彼がもっと気安く振舞ってくれることを望んでいるのに。
「それに、前々からあれだったけど、最近さらにアレだ。……アレじゃないか?」
ジョルジュは言いにくそうに、声のトーンを落とした。
「彼、もう五十過ぎてるんだろう。なのに、あの色気はなんだ」
ウェザイルは思わず眉を上げた。咳き込みそうになったのを、すんでのところで耐える。