どうともならない



「おまえ、さっきから、なんだかおかしくないか?」
「別に……」

 ウェザイルは顔を背けて、視線をそらした。その態度がまた、ジョルジュの不信感を煽ったらしく、今度は食い下がってきた。

「ベラムのことになると、おまえちょっと変だぞ。もしかして──」
「…………」

 ジョルジュがからかうような目つきになった。

「もしかして、おまえ、そんなでかくなって、ベラム離れしてないのか? ははは、昔からそうだったよな、何かにつけてベラムベラムってべったりだったしなー。でも、あれだぞ。もうおまえもいい大人なんだから、そろそろベラムから卒業してだな、俺みたいにかわいい嫁さんを……」
「違……!」

 ウェザイルはテーブルに手をついて、半ば身を乗り出しかけた。テーブルがきしむ音に我に返って、あいまいに目をそらしながら椅子に座りなおす。

「……ちが、……わない、けど、な……」

 しかし、この態度は今度こそ、ジョルジュの注意を引いてしまった。からかうような表情が、次第に真面目なものに変わっていく。

「おいおい、もしかして……、……いや、冗談だろ? だって、ベラムはもう五十過ぎだぞ。おまえと二十以上も離れてるじゃないか……」
「……さっき、おまえ、その趣味があったらベラムでも口説くって言った」
「いや、それはそうだけど。それは話の流れみたいなものがあるわけで……」
「色気があるとも言った」
「確かに言ったよ? 言ったけど、それはそれこれはこれ」

 ジョルジュの反応を見ていると、次第に腹が立ってきた。これでは、ありえないとバカにされて笑われているようだ。

 確かに、自分とベラムの歳の差はかなりある。だが、だからといって、その可能性がないなんて、誰が言い切れる。一つもおかしなところなんてない。自分は正気だ。

 ウェザイルは仏頂面になって腕を組んだ。
 ジョルジュは、いやだからな、と良く分からない同意を求めてくる。

「それって単に、小さい頃から面倒見てもらったっていう、こう……やっぱりベラム離れできてないだけなんじゃないのか。よく考えろ。おまえ、あのベラムとベッド共にできるか?」

 尋ねられて、ウェザイルは言葉に詰まった。

 ──あのベラムと。

 ジョルジュは、少し安堵したような顔になった。

「ほらな。おまえ、多分、ただの独占欲とかだよ。それは」
「…………」

 ウェザイルは口元に手を当てて、微妙に視線をさまよわせた。意図していないのに、頬がほんのりと熱を持ちはじめる。まずい、とウェザイルは目元を手で覆ってうつむいた。ジョルジュに何か言われる前に、咄嗟に空いたほうの手を、彼に向かって制するようにかざす。

 ──ツッコミたいことはわかる。すごく良く分かる。

 言葉にならない訴えは、ジョルジュに伝わってくれたようだった。ジョルジュは信じられない、というように長いため息をついた。

「……まあ、主筋が使用人に手を出すのは、珍しいことでもないけど……」
「そ、そういう、簡単な話じゃ、ない」
「そうだろうな」







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