愛され執事とノロケ話
●おまけ●
仕立係のミラルが、自室で新しい布地の購入を検討していたとき、訪問客があった。
扉を開けると、そこには、執事長補佐──つまり、執事長ベラムの補佐であるアランが立っていた。
「あら、アラン」
ミラルは長身のアランと同じぐらいに長身で、痩せ型の男だ。こぎれいな顔つきと、女性的な口調、はではでしいファッションを好む傾向にあるせいで、心は女性なのかと思われがちだが、基本、ミラルの指向は男性寄りだ。だが、きわめて自然な感じで科を作るので、初めてミラルと対峙した者は窺うような顔をする。
アランは鳥の巣のような頭に手をやりながら、すみません、と妙に間延びした挨拶をした。このアランは執事長の補佐という立場にはあるが、ひどく鈍感で、マイペースなところがある。
仕事ができないというわけでもないし、どこか憎めない性質をしているから、ミラルはこのアランを信頼はしている。
「どうしたの、あたしに何か?」
「ええ、まあ。……執事長、知りませんか」
アランは独特な発音で、シツジチョーと言う。それでもどこか親しみを感じるのは、アランが人懐こそうな顔をしているからだろう。
「ああ、執事長? ウェザイル様の採寸しに部屋に行かれたけど」
「え」
「執事長が自分で行くって言ったから」
鈍感が服を着て歩いているようなアランは、不思議そうな顔をする。良くも悪くも、察しが悪い。ミラルは肩をすくめた。
「逢瀬でしょ」
「ああ」
ようやく得心が行ったというふうに、アランは眉を開いた。
執事長のベラムが、シメオン家の次男、ウェザイルと特別な関係なのは、屋敷内では周知の事実だ。
「執事長に何か用だったの」
「え。ああ、はあ。そうなんですけど。……いいです、そこまで急ぐことでもないですし」
いかな鈍いアランも、ウェザイルの部屋にまで押しかけるのは具合が悪いというのは心得ている。馬に蹴られて何とやら、という言葉もあるぐらいだ。
「しかしなんだわねえ。執事長もどうなのかしらねえ。ウェザイル様にお会いしたければ、お会いしに行けばいいのに。わざわざ用事を作らないと部屋にも行けないなんて。執事長なら、好き勝手してもウェザイル様はきっと喜ぶと思うのだけど」
「あのお二人は、複雑ですし……」
「複雑というより、……なんなんでしょうねえ」
ミラルはため息をついた。
……採寸の結果は、明日にならないと手元に回ってこなさそうだ。多分。