翌日、日を置かずにまた土屋さんがやってきました。
 今度は、なんだかよく知らないけどでかいビニール袋を提げています。
「よう、元気か」
 天井を見つめているところなのに、がやがやと、土屋さんの声がして集中できません。
 正直言って、たとえ土屋さんがイケメンでも、俺にはまるきり関係ないことです。
 だって、イケメンが俺を殺してくれるわけじゃないし。
 土屋さんは、俺が寝ているベッドのそばにきて、どっかと腰を下ろし、また頭をがしがし撫でました。
 本当にこの人は人の頭を撫でるのが好きなようです。
 そんなに好きなら、自分のちょっと白髪が出てきた頭を撫でてりゃいいのに。この野郎。
「やめてください」
「浩之はかわいいなあ」
「帰ってください」
「そうそう、この前言ってたコロッケ買うてきた」
 見事に話が通じてません。
 おっさん宇宙人すぎます。
 俺はむかついたので、寝返りを打って、土屋さんに背を向けました。
「なんだよ〜、こっち向けや〜」

 ゆさゆさ
 ゆさゆさ

 揺さぶられます。
 本当にこのおっさんは爽快に距離なしですね。一度星に帰りやがれ。
「そか。ま、ええ。俺コロッケ食うからな。ものごっつうまいコロッケやからな。これ食わへんとかモグリやろ」
 ガサガサと、ビニール袋の音がします。
 気のせいか、コロッケのにおいがしてくるような気がします。

 コロッケ、しばらく食べてません。

 むしろ、ここ数日、何か食べた記憶があまりありません。
 そりゃそうですよね、一日に何もせずに天井の番をしてるんですから、減るもんも減りゃしません。
「…………」
「…………」
 微妙な沈黙。
 まったく、人の家にきて、コロッケ食うとか、イミフ。マジイミフ。
 そもそも何のためにコロッケ買って来たんでしょう。
 母さんと食べてればいいのに。
 別に俺はほしくありませんけど。
 別にほしくありませんけど。
 何かほしいとか、死んだほうがいいクズが言えるようなことじゃありませんし。
 何かほしいって自己主張するにも、資格っていうのが存在するんじゃないでしょうか。
 何の役にも立ってないニートが、あれだこれだと主張するのなんか、ブラックコメディとしか。
 俺は、布団の端をきつく握って、バサリと布団を頭から被りました。

 本当、そっとしておいてください。
 もうクズをつつきまわすのやめてくださいよ。
 何の暇つぶしにもなりませんよ。
 もうちょっと勇気が出たら、ちゃんと死にますから。自分でカタつけますから。
 小島浩之、二十歳超え。
 ちゃんと自分が底辺のクソゴミだって自覚してますから。

 突然。

 ドスッ

 布団の上に確かな重み。
 わざわざ布団の中から顔を出して確かめなくても分かります。
 土屋さんです。
「声、聞かせろや」
 ああ。また。
 だめだ。
 その声は卑怯だ。
 この人、分かってやってる。
 俺は必死になって、布団をつかんで顔なんか出してやるかの意思表示を行います。
 土屋さんの言うとおりにするのも癪ですが、何より、今、

 ちょっと、頬が赤くなっているので、顔を出すのはまずいのです。

「おう、ええ度胸や。そっちがそうなら、俺もやるで?」

 この宇宙人おっさん、なんでこう、破廉恥な声してやがるんでしょう。
 そっちのほうの専門なんでしょうか。
 そっちのほうの専門って、具体的にはしりませんけど。なんかあるに違いありません。
 グッと、布団が引っ張られます。
 うわあ、本当に実力行使に出やがるつもりか、この距離なし!
 布団をめくられたら、死ぬ!
 あ、別に死にたいから死んでもいいんですけど。なんか、この死に方だけは嫌なんで。
 ギギギ、という効果音が似合いそうなぐらい、歯を食いしばって、布団をつかんで耐えます。
 土屋さんは、ガンガン布団を引き剥がしにかかります。

 ぬおおお、死んでたまるか。


 あ、

 普通には死にたいんですよ?

 本当。







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