※ ※ ※
結果としては、俺の惨敗でした。
元より土屋さんは、身長が二メーターを越すかと思われるほどの大男なのでした。
マッチョではないにしろ、デカイというのは、勝負事のいかなる場面において有利です。
そういうわけで負けました。
ええ、あっさり。
必死に引っかぶっていた布団をめくられ、俺はあえなく顔を出しました。
「っ!」
土屋さんの顔が間近にありました。
しかも、ベッドの上で、完全に組み伏せられた格好。
息を詰めて、顔を背けます。
ああ
もうだめだ。
「……俺の勝ちやな?」
このまま好きに犯されておもちゃになるんでしょう。
男でも尻穴という穴がありますから、突っ込むところがあればいいタイプの人には、俺みたいなクズでも事足りるわけです。
ああ、もうどうでもいいや。
暴れるとろくなことなんかありません。それは、以前の職場で経験済みです。
暴れると、切れるし、痣はできるし。
切れるのはごまかせても、痣ばかりは何で出来たかの言い訳考えなくちゃいけないし。
それに、俺は男なので、中出しされたところで子どもなんてできませんから、ちょっと間我慢すれば済むことなのです。
大体、
こんなゴミクズ中の二十歳越え底辺ゴミクズニート男が役に立つのって、尻穴提供ぐらいしかなくないですか。
前の職場のスケベ上司もそう言ってましたし。
役に立たない新人で、顔ぐらいしかいいとこのない男は尻ぐらいしか見るとこないだろって。
見るっていうか、掘るっていうか、突っ込むっていうか、まあそういう意味合いでしたけど。
ああ、でもなあ。
ローションはつけてほしいなあ。
マジで痛かったから。
セックスで痛くて死んだ人っているんでしょうか。
もしいたとしても、セックス死って、なんか後に残された母さんがかわいそうだから、嫌だなあ。
布団の下で、俺の身体から力が抜けたのを感じたのでしょう。
土屋さんは「ん?」という顔をしました。
そうだよ、諦めたんだよ。
もう好きにすればいいです。どうぞ俺はあなたのおもちゃです。
早々に投げやりになった俺に、土屋さんはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら……
と思ったら、そういやらしい顔もしていませんでした。
まあ、元がイケメンオヤジなので、どんな顔しても様になってしまうんでしょう。俺はだまされない。
さあ、とっととやることやりゃあいいです。
別に、母さんにチクったりポリスメンに訴えるつもりもないですし。
妊娠しないから楽ですよね。本当楽だ。ああ、楽。
土屋さんは俺の顔をじっと覗き込んでいます。
「おまえ、」
なんですか。このセクハラ変態宇宙人オヤジ。おまけに距離なし。それから強姦魔。
「寝るときも眼鏡かけてるんか?」
は?
言うにことかいて、眼鏡?
もっとこう、センシティブなことを口に出せないんでしょうか、このチョイ悪関西オヤジ。
別にくどかれたいとか、そういうんじゃないですけど、
だって、今からチ○コ突っ込むんですよ。二十歳越えのゴミクズニートに。
「なんや、まだ眼鏡直してなかったんか」
土屋さんは、ハハハ、と俺のテープで補強しまくりの眼鏡を笑いました。
そうです、眼鏡は鼻あての部分が壊れたまま、テープでぐるぐるまき。
だって、眼鏡屋に出かけるのが怖かったので。
なんか生きてる人間がたくさんいるとこに行くと、深刻に死にたくなって、帰り道線路に身を投げそうなんで。
電車とめたら、お金的な意味でヤバイっていうのは知ってますし。
土屋さんは俺に向かって手を伸ばし、
前髪をさらさらとなでました。
「ちょっと貸してみ。できるかどうか分からんけど、直せるかわからん。……静江さんも、気づいてくれればよかったのになあ」
「そ……それは、母さんとは顔をあわせてませんので」
顔をあわせていないのだから、眼鏡が壊れてることが分かるはずもない。
しかし、そもそも二十歳も過ぎてる男に、眼鏡が壊れたから直そうね、なんて甘やかしもいいところです。母さんには、そんなことまで求めてないですし。
「しかしおまえ、顔真っ赤やけど、熱あるんか」
「は。……ああ、いえ、赤いのは、さっき負けたからです。布団攻防戦で」
「ああー、そかそか」
俺は視線をさまよわせ、もごもご。
なんでベッドで組み伏せられてる体勢で、こんな間の抜けた会話をしてるんでしょう。
この人、スケベ上司と同じぐらいの年齢なのに、なんで、さっさとやることやってしまわないんでしょう。
こんなグズニート、肉便器の価値ぐらいしかないですよ。
肉便器としてもレベルが低いって上司は言ってましたけど。
俺は困りました。
この人が何を目的にしているのか分からなかったので。
まさか、
こんな底辺クズ駄目人間、更正させてやる! ってはりきってるわけではないでしょうし
そもそも
いくら母さんの職場の上司だとしても、こんなニートで駄目ちんな恥ずかしい二十歳過ぎの男を更正させようっていう義理も義務もないわけで……
あ
そうか。
土屋さん、ひょっとして、母さんからお金をもらってここにやってきているのかもしれない。
駄目ニートの息子を何とかしてくださいっていう、そんな感じの依頼で。
あーあ。
そうか。
お金もったいない。
それと、母さんがかわいそう。
母さんが思っているより、俺ははるかに駄目クズニートなんです。
今ですら、自宅警備員どころか天井警備員のありさまですし。
土屋さんも、早めに諦めたほうがいいんじゃないかなあ。
「何ぼんやりしとるんや、浩之。眼鏡のほう見たるから、その間コロッケ食べとけや」
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