「……浩之」

 藤次さんの顔が迫ってきて、キスをされました。
 舌がしびれているのに、それでも強引な熱いキスでした。
 眼鏡のフレームが当たって歪むほどの。
「っ……、ふ……、っちゅ……」
 唾液があふれて伝って、落ちていきます。
 俺は、息苦しくて、藤次さんの髪をつかみました。そっと、引き寄せるようにつかんで、舌を絡めます。
 ああ、俺。
 この人のキスが好きだ。
 触れるだけのキスも、こんな深いキスも──
 本当に、本当に。
 息継ぎのために、藤次さんの唇が離れます。
 荒い呼吸が肌をくすぐって、俺はせつな的な気持ちになりました。
 離れた唇に、喪失感すら感じました。

 だから、

 だから、俺は、舌を出して、藤次さんにキスをねだりました。

 もっと、キスを、して。

「っ、浩之、」
 伸ばした舌を、藤次さんの熱い舌が絡めとります。
 乳首を吸ったときみたいに、きつく舌を吸われてくらくらとします。

 ああ、キスだあ、と俺はくらくらしながら嬉しくなりました。

「おれ……、これ……好き……」
「っ! あんまり、おっさん、煽るような、もんちゃうで……!」
 荒く呼吸を乱した藤次さんが、切羽詰った動作で俺のトランクスに手を掛けました。
 そして何のためらいもなく、トランクスも引き摺り下ろされてしまいました。
「っは……ぁ、あ……、」
 晒されたそこは、ぎんぎんに勃起していました。
 まとうものが何もなくなったことにすら、快感に感じます。
 俺はかすかに腰をゆすって、その勃起したものを揺らしました。
 これが藤次さんに見られてると思うと、どうしようもなく興奮しました。
 もう恥じらいとか、そういうのはどこかにいってしまいました。
 ただもう、この勃起したこれを、何とかしてしまいたい。
 できれば藤次さんの手で。
 できれば見られながら。

 ああ、俺、俺、こんな淫乱な気持ちになったのは。

「ったまらんなぁ……!」

 藤次さんが、感極まったようなかすれた声を上げると、俺の両足を持って、広げながら持ち上げました。
 そのまま、ひざがテーブルにつくように押さえつけます。
 身体を曲げるような体勢です。
 お腹が折れて、息苦しくなりました。
 でも、この息苦しささえ、なんだか気持ちがいいような気がしました。
 いや、それとも。
 藤次さんに睾丸の裏側までも見せ付けているような体勢が気持ちいいのかも──

「おまえ、ほんま、エロいな……」

 優しくて甘い声。それなのに、エロくて、泣きそうになる。
「あ、……」
「綺麗やで。やっぱりおまえは、別嬪さんや」
 かあっと頬が熱くなりました。
 俺なんかのどこを見て綺麗なんて。
 この人、やっぱり頭おかしい。
「ええで、浩之。もっと甘えてみ」
 甘えろといわれても、どうすればいいのか分かりません。
 眉を寄せて藤次さんを見上げると、何してもええんやで、と囁かれました。

 何してもいいと言われても。

 どうしたら。

 俺はよっぽど困り果てた顔をしていたのでしょうか。
 藤次さんが、苦笑しました。
「……そないな顔するんやない。もういじめん」
 藤次さんは俺の眼鏡フレームに触れて、俺の硬く勃ったものを握りこみました。
「っあ……!」
 いきなりのことに、ひっくり返った声が出ました。
 俺の驚きなどよそに、藤次さんの大きな手が、強引に棹の部分をしごきはじめます。
「あ、あっ、あっ……!」
 鼻にかかった甘えた声がこぼれてしまいます。
 抑えようとしても、腰の奥が疼いて疼いて、あえぎ声を殺せません。
「っひ……、と、とぉじさっ……」
 快楽がひどすぎて、舌足らずに名前を呼びます。
 涙がにじんで、レンズ越しの視界が歪んで見えます。
 ああ、藤次さんの顔も、なんだか歪んでよく見えない……。
 くちゅくちゅという濡れた音を立てながら、棹、玉袋をもまれます。
 そのたびに、俺の四肢はビクビク震えておさまりません。
「っは、っあ! あ! や、やあッ……」
 皮を強引にずらさないで。
 そんなに強く双球をもまないで。

 想像よりもずっと、強烈すぎて。

 頭がおかしくなってしまう。

 気持ちいい。
 気持ちよくて、どうにかなってしまう。

「っは、や、やだぁ、……きもち、いっ……、きもちいっ……」
 うわごとみたいに、呼吸の合間合間に気持ちいいと繰り返すと、藤次さんの指先が、亀頭をやわやわと愛撫してくれました。
「っぁぅ……! っあ……! もっ、もうやだぁっ……、もっ、もうやだあ……!」
 見知った感覚が競り上がってきて、俺は泣き叫びました。

 嫌だ、嫌だ、まだ出したくないっ……

「っ……ん、っ〜〜〜〜っ……!」

 ぴゅ、びゅるっ……!
 びゅっ……!

 あ、あ、あ……
 出てる……!
 出てる……!
 俺、藤次さんの手で……!
 気持ちいい……!

 とめられない。
 とまらない……。

 ぴゅ……、ぴゅく……

 出してしまった……。
 藤次さんの手の中で。

 残ったのは、達成感に似た快楽の名残と。
 吐き出して終わってしまったという後悔。薄寒い喪失感。

「よう出した」
 藤次さんの声がしました。
 足首を押さえていた力が緩んで、ゆっくりとテーブルの上に腰を下ろしてくれます。
 折れ曲がっていた感覚がなくなって、呼吸がいくらか楽になりました。
「こらまた、ようさん出たな?」
「あ……」
 まばたき。荒い呼吸。
 見上げた藤次さんの顔は、笑っていました。
 あざ笑うような笑い方ではありませんでした。

 なんでこんなに、安心するような笑い方できるの──







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