藤次さんが息をつめて、つらそうな顔をしました。
「っ、……、俺は先っちょだけだからなんて…、スケベオヤジの適当ないいわけなんぞせんぞ。途中でやめるなんてせえへん……、それで、……ええんやな……?」
 俺はもどかしい気持ちで、何度もうなずきました。
 藤次さんは小さく笑って、テーブルの上に登ってひざをつきました。
 ギシギシと、テーブルが大きくきしみます。

 ああ、やっと。
 やっと……!

「浩之、もう一度や……、もう一度、俺に甘えてみ……? 何がほしいか、言ってみ……?」

 え……、なんで……。
 なんで、
 そんな意地の悪いこと。

 俺、俺もう、我慢できないのに。
 も、もう、我慢できないっ……

 肛門がひくひくしてるのは、見えてるはずなのに……!

「あのな、浩之……、ほしいもの、あるんやったらほしい、言うてええんやで。くれって口にしてもええんや。俺な……、」
 藤次さんが、指で俺の肛門をつつきます。
 熱を煽られて、息をつめた瞬間、頬に涙が伝いました。
「俺な……、おまえ見てると、いつも我慢してるみたいに見えて、たまらん……、だから、俺には甘えてくれへんか……」
「……あ、……」
 胸が絞られるように痛くなりました。

 この人のことが、俺は。本当に。

 俺は藤次さんに向かって、手を伸ばしました。
「……、と……、藤次さ、……とぉじさ……、」
 舌足らずなのに、藤次さんは俺の伸ばした手をとって、強く握ってくれました。

 この大きな手が好き。
 この力強さが好き。
 今俺を見ている、この優しいまなざしが好き。

 この人のキスと、体温と、肌に触れるひげの感触と、唾液の熱さ、胸板の厚さと言葉がほしい。

 藤次さんが、俺に向かって、おまえはクズじゃないんだと、言ってくれてるの、分かってた。
 だから、ちょっとだけ俺はクズじゃないのかな?とも思ったんです。

 だって、俺、クズになりたかったわけじゃないもの。
 クズになろうと思って、生まれたわけじゃないもの。

「うん……、言うてみ……?」
「……、」
 唇を動かしても、うまく声が出ません。
 藤次さんは、空いているほうの手を伸ばして、俺の眼鏡のレンズに触れました。指の腹で、汚れた視界をぬぐってくれます。
 そのあとで、そっと唇を撫でてくれました。
 うながされているのだと感じて、俺はもう一度、唇を動かしました。
「…藤次さん、俺…に、俺に全部、…ちょうだい……、」

 全部、ほしいから、

「……だっこして……、キスして、俺のここ、……俺の穴の中に、藤次さんの入れて……?」
 俺はぎゅっと、藤次さんの手を握りました。
 恥ずかしいし、怖かったので。
「俺のこと、……好きに、なってくれないと嫌だ……」
 痛いほど強く、ぎゅっと手を握り返されました。
 もし笑われたら?とか、もし勘違いするなと言われたら?とかいう不安が一気に消えていきました。
「……よう言えたな。頑張った」
 俺以上に、嬉しそうな顔で藤次さんは言ってくれました。
 俺は、その顔を見て、ようやく、言えたんだと心から嬉しくなりました。
 安堵したつかの間、

「……あ」

 肛門に硬いものが押し当てられました。
 息を止める暇もなく、ゆっくりと硬いものが入ってきます。
「ん、……んんっ……!」
 大きな声を出してしまいそうで、俺は唇を噛みました。
 藤次さんのそれは、想像していたよりも大きくて、太くて……ずっしりとしていて。
「ゆ、…ゆっくりいくからな。痛くて、我慢できんくなったら、言うんやで……?」
 つぷ、じゅぷ……と、俺の中に、藤次さんの太いものが入ってきます。
「あ、……あ、……」

 あ、あ、……俺の中に、藤次さんの……入ってくる……!
 す、すご……、すごく、大き……

 ずぷずぷと埋め込まれるたび、ぞくぞくと身体が震えます。
 不快感や恐怖ではありません。
 内臓の裏側から湧き出てくるのは快感です。
「……ぐっ……、っん……っ!」
 入り口に走る、ピリピリした痛みと、自分の中に入ってくる感覚。
 ゆっくりと割かれている感覚がしました。

 熱くて、痛くて、それでもすごく、……

「浩之……、大丈夫か……」


 ……なんだこれ


 なんだこれ、


 ものすごく、


 ものすごく、


「っん……! っはあっ……!」
 グッと押し込まれて、俺はたまらず噛み締めていた唇を緩めました。
「全部入ったで」
 藤次さんが覆いかぶさるようにして、俺にキスをしました。
 舌を絡めたくて差し出すと、無視せずに舌を絡めてキスをしてくれます。
「っん、ふぅっ……、っんん……」
 何度も何度もキスを繰り返すと、俺の中の藤次さんが大きくなる感触がします。

 ああ、藤次さん、

 俺とキスして、興奮してくれてる……

 嬉しくなって、つい無意識に藤次さんのものをきつく締め付けてしまいました。
「ッ……、おまえな」
 やったな、という顔をされました。
 俺は、その様子がなんだかたまらなく、たまらなく嬉しくて、笑いました。


 だって、仕方ないじゃないですか。
 俺、あなたのことが好きなんで。
 離したくなくなるんですよ。


「ええ度胸やないか。おっさんなめるんやないで。絶対気持ちええ、もっとしてって言わせたる」

 それはあんまりにも、おっさんくさい表現……

「っ!? ちょ、ちょっと待っ、そんないきなり……、っひ……!」
 いきなり、ずるり、と中に埋め込まれていたものが引き抜かれて、俺は思わず大きな声をあげてしまいました。
 ちょっと、とか、非難しようとしても聞く耳を持ってくれません。
 何の余韻も置かずに、藤次さんはズン、と俺の中を突いてきました。
「っひぃっ……! っと、藤次さっ、待っ、待って、もっとゆっく……、っああ!」

 ぐちゅっ、ぐちゅっ……!

 完全に藤次さんのペースです。
 入り口が擦れて痛いのに、中を突かれる度に、痛み以外の何かがどこかの奥からにじみ出てきて、俺をたまらない気持ちにさせます。
「っあ、あっ! そんな、早っ……」
 引き抜かれるたびに切ない。
 貫かれるたびにいたたまれない。

 俺は必死で、テーブルに爪を立てました。
 そうでもしないと、おかしくなってしまいそうで。
 ……もうおかしくなっているのかもしれませんけど。

「はっ、あっ! あうっ、っあ! あっ! もっ、」
 肉のぶつかり合う音と、テーブルのきしむ音。
 ああ、でも、何より耳に聞こえているのは、藤次さんの荒い呼吸。
 今だって、中に入ってくるたびに、硬くて熱くて、太くて大きな形をしているのが分かるから。

 離れてほしくなくて、俺は無我夢中で足を藤次さんの腰に絡ませました。
「っ浩之……!」
 藤次さんの声が、非難しているように聞こえたので、俺は更にぎゅっと足を絡ませました。

「っやだ、嫌だっ……、離したくないッ……、俺、もっと、ッ」

 俺のこと好きになってくれないと嫌だって言った……!

「ああ、浩之……、浩之……、離さへん、俺は、絶対におまえのこと離したりせえへん……ッ」

 聞かされた告白が、熱くて、痛くて、焼きついて。
 俺は、たぶん、泣きました。
「浩之っ……、浩之……!」
 うわごとのように俺の名前を呼びながら、藤次さんは腰を動かすペースを速めました。
「っあ、あ! と、とぉじさんッ、」
 ずくずくと、中の、奥のほうを突かれて、声が裏返ります。
 痛みなんて、どこかにやってしまいました。
 もう、奥のほうを突かれるのも、入り口をすり上げられるのも、近くの肉を抉られるのも、何もかもが嬉しくて気持ちよくてたまりませんでした。
「とっ、とぉじさっ、俺のこと、好き? 俺の、こと好き……?」
 ここにいてもいいんだよって、
 ここにいてほしいって、

 おまえはクズでも肉便器でもないんだよって、




 おまえのことが大切なんだって、言って。







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