千円の代償



 派手派手しい容姿とは裏腹に、恭一はわりと真面目だ。
 彼は、小さなアパートの一室を借りて、一人暮らししている。確かに部屋自体は片付いていないことも多いが、家事の類がまったくだめな順作に比べれば、一人暮らしが出来るという点で尊敬に値する。
 恭一に案内されて、順作は彼の部屋に足を踏み入れた。
 以前来たときよりも、綺麗に片付いている。部屋には大きいソファと、その奥に折りたたみベッドが広げられている。衣装ケースが一つ増えたようだ。部屋の隅に積まれている。

「峰岸恭一君……」
「なに」

 彼は部屋の鍵を台所のステンレス台に置きながら、振り返らず返事する。
 順作は、そっと両手で眼鏡のフレームを押し上げた。

「あの、……私に何か話があるのだろうか」
「は」

 恭一が振り向いた。
 鋭い目つき。釣りあがった眉。派手な髪の色。そんなふうに聞き返されると、少し鼻白んでしまう。

「い、いや、その。何か私に話があるから、こうやって家に招いてくれたのだと思っ」
「……はあ?」

 恭一は眉間にしわを寄せながら、ジーンズのポケットに手を入れた。……どこか機嫌が悪そうだ。

「んだよ、それ。用がなきゃ、アンタと会っちゃだめって?」
「え、いっ、いや、そういう意味では!」

 違う。それは違う。
 ただ──でも──誰かと付き合う、というのをしたことがないから、一般的な勝手が分からない。
 順作は大いに困って、それからそうだ、と思い出した。

「そ、そうだった。私は君に用がある」
「用?」

 恭一が怪訝そうな顔をする。……やっぱり、どこか機嫌が悪い。
 順作は、服のポケットから、千円を取り出した。晴喜から預かったものだ。

「村井君から預かっ」
「なんで晴喜の話すんの? ムカつく。聞きたくないし」

 恭一は仏頂面になって、こちらに背を向けた。無視する形で、ずんずんと部屋の奥のほうへ行ってしまう。

「え、み、峰岸恭一君、待ってくれ」

 順作はあわてて、彼を追った。
 どうして彼がこんなに頑なになっているのか分からない。以前、村井晴喜とはあれこれあったが、それはもう解決したことのはずだ。恭一も納得していたはずだし──

「み、峰岸恭い……」

 え、と思ったときには何がなんだか分からなくなっていた。
 肩をつかまれた。引き寄せられた。視界が反転して。
 気がついたときには、順作はベッドに押し倒されていた。










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