千円の代償
※ ※ ※
──どうしたらいいんだ。
恭一はあせった。
こんなつもりじゃなかった。泣かせるつもりなんてなかった。ただ、順作を見かけたとき、彼は晴喜と一緒にいて、晴喜に触られたところを随分重要なもののように眺めていたから。
細くて痩せていて、骨が出ている彼の手首は、自分の好きなところの一つなのに。
つまらないことで、引っかかった。つまらないけど、どうしてもダメだった。
「……泣くなよ」
泣かせたのは自分なのに、他人事にもほどがある言い方をしてしまう。こんな言い方をしたいのではないのに──言葉が出てこない。
こうじゃなくて。そうでもなくて。ただ。
かっこ悪く嫉妬していただけ。
「……ごめ、ん。ごめんてば。泣くなよ。俺が悪かったよ」
防御するみたいに……実際、防御しているのだろうが、腕で顔を隠すこの人を見ていると、自分の情けなくてかっこ悪いところを痛感してつらい。
「っ……ごめ、ごめんって言ってんじゃん。返事して」
「ッ……、い、今は、無理…だ…、声帯が、締まって、」
「セイタイ?とかどうでもいいって──」
恭一はどうしようもなくなって、順作の背中に手を回してぎゅっとした。細くて痩せていて、骨を感じるような体。たまらない。息をするたびに、胸がせりあがるから。
恭一は、順作の細い手首をつかんだ。
その細くて硬い手首に、唇を寄せる。
「っあ……?」
順作はびくりと震えた。それがまた、おびえているみたいに見えたので──
なでるみたいに手首の骨を舐めた。何度も何度も、猫や犬みたいに。この硬い感触、骨の気配が好きだ。好きで好きでたまらない──
「っあ……、そん、な……ちょ、ちょっと待っ…」
順作が身じろぎする。それを許したくないから、片腕で細い身体を強く抱きすくめる。
「あぁ……」
「見苦しいとか、やめて」
本当やめて。
それが好きな自分はどうしたらいいのか分からない。
「俺が嫌だって思ってたら、こんなことしねえから」
手首から、腕、ひじへ。手を離して、彼のデニムシャツのボタンを一つ二つと、外していく。
見えてくる痩せた鎖骨に興奮する。何がどうたまらないのか良くわからない。ただの男の痩せた胸なのに、年上のこの人の胸だと思うだけで下半身に血が集まってきてたまらない。
早く触りたい。舐めたい。抱きたい。
我慢する気もなく、その鎖骨のくぼみに舌を這わせる。
「っひ……ぅ……!」
順作の体が硬くなる。反射的にだろうか、指を髪に差し入れて、ぎゅっと握られる。
れろれろと鎖骨をなぞるようにして舐める。そのたびに、順作は短い呼吸を繰り返した。その合間合間に、恭一は順作のシャツのボタンを外していく。完全にボタンを外してしまうと、薄い胸板があらわになった。
「は、……」
「エロ……」
青白い肌に目が眩んで、くらくらする。ぞくぞくする。
順作をベッドに横たえさせると、両手でその薄い胸に触れる。
「っう」
指先が触れただけで、順作は真っ赤になって耐えるような顔をした。いじらしいその反応が恭一の中に火をつける。
もっと恥ずかしがるようなことをしたら、この人はどんなふうに恥ずかしそうにするのだろう。
想像すると、途端に隠しようのない凶暴な気持ちになった。
両手のひらで、彼の肉付きの薄い胸をつかむ。乳首をねじりだすように、無理やり肉を寄せると、順作は顔を歪ませてベッドのシーツを握り締めた。
「ぃ、……」
薄い胸だから、女のように揉むことなんてできない。筋肉がついているわけでもないから、強い弾力があるわけでもない。それでも無理やり、そこを揉む。
「あ、あぐ、……あ……! あ……! い、痛……、そんな」
順作が嫌がって、逃げ出そうとする。それを力任せに押さえつける。
薄い胸は、揉み跡がついて痛々しい赤になった。乳首に手のひらを覆い被せるようにして、ぐにぐにと乱暴に愛撫する。
「あ、あ……あ……っ」
いやだいやだ、と順作が首を横に振る。
恭一は赤くなった彼の薄い胸を、しぼるようにしてぎゅっとつかんだ。薄い色をしていた乳首は、真っ赤になって無理やり寄せた胸の先で硬く立つ。
「痛っ……」
「乳首立っちゃって」
かわいい。
真っ赤になった乳首はツンと立ち上がって、ぷっくりと膨れる。手のひらでそれを潰すと、順作が耐え切れないように悲鳴をあげた。
「っああ! あ、だ、だめ、だめだ……っ」
「どこが……? 真っ赤っかになってスゲー硬いけど……」
「っひ、ひぃっ、ひぃ……っ、む、胸は、もう、やっ……」
ぐにぐに、と円を描くように胸を愛撫しながら、白い肌に浮いたあばらにキスをする。遠慮なしにべろりと舐めあげれば、順作の胸が激しく上下した。
「はっ、……あ、あう、あ……」
綺麗なあばら骨。緊張して、せわしない呼吸。
白く透き通るみたいな、痩せた胸。
ちゅ、ちゅと唾液で印をつけながら、下腹部のほうへ移動する。
「っ……ぁ」
腰骨にキスをしたとき、順作はたまらないように身体をよじった。
すぐ目の前で股間を隠すようにされて、恭一の腰の奥にずくりとした熱いものが湧き上がってくる。
──ここまできてどうして隠すの、アンタを犯したくてたまんないのに。
恭一は有無を言わさず、順作のズボンに手を掛けて一気に脱がせた。
「っあ……!?」
ぶるりと順作のペニスが晒される。そこは半分勃起しかけていて、震えていた。恭一は声を出さずに笑った。
「っ……」
順作は真っ赤になってシーツを顔に引き寄せた。
その恥じらい方が、たまらなくかわいい。ああやっぱりエロいことしたい。自分だけのものにしたい。
恭一は、半勃ちになった順作のペニスをつかむと、皮をずらすようにしてしごいた。