千円の代償



「っひ! あっ、あ!?」

 順作の体が跳ねて、たまりかねたように抱きついてくる。頭を抱えるようにされて、息苦しさを覚える。順作の匂いがすぐ近くでする。体温を感じたときには、もうどうにもならなかった。
 くちゅ、ぐちゅ、ぬちゅ……
 あふれ出てくる汁に皮が鳴る。手のひらをじっとりと濡らす感触と、紛れもなく熱い陰茎。はっ、はっ、と順作の息遣いが耳元で。

「っま、待っ、……あ、あ! もっ……み、みねぎっ……」
「すっげ、チンコ超硬い……」
「っ……!」

 順作が羞恥に震える。きゅっと、順作の手が髪の毛を強く握る。
 恥ずかしがるこの人は、本当に子どもみたいだ。普段は理性的なことばかり言うくせに。

「恥ずかしいんだ?」

 先っぽの割れ目に爪を立てるようにして、こすこすといじれば、順作の体がびくびくと震えた。

「っあ、あ、う、あう……!」

 強弱をつけて肉棒の先を包み込むようにして刺激する。搾り出すように少し乱暴にしてやると、順作が激しく頭を振った。

「っ! い、いや……! や、やめて、……れ……! お、おねがっ……、おねがいだ……っ!」
「なんで……?」
「もっ、も……!」

 必死にしがみついてくる力に、余裕がない。
 手の中のペニスはびんびんに張り詰めて勃起しているし、下腹部に力がこもっているのが見ただけで分かる。
 我慢しているのだ。真っ赤な顔をして、下半身を震わせながら。
 その姿はひどく色っぽい。元々白い肌の順作は、少しひどくしただけで赤く色づいてしまう。なけなしの理性がせめぎあって、我慢に我慢を重ねているのだと思うと、もっといじめて泣かせて、求められたいと思ってしまう。
 乱れたこの人の様子ときたら、たまらなくかわいらしいから──

「……わかった」

 恭一はあっさりと順作の硬いペニスから手を離した。

「……え」

 間の抜けた声が順作から返る。
 涙に濡れた目で、恭一を見る。

「嫌なんだろ」
「い、嫌、という……わけ、では……」
「うん、もういいよ。わかった」

 ギシ、とベッドをきしませて、身体を離す。
 あ、というかすかな声。順作は勃起した性器を隠すように、両足を閉じてもじもじした。
 普段の彼ならば、焦らされていると察しただろう。こんなあからさまな焦らし方だ。分からないほうがおかしい。だが、順作は半ば泣きそうな顔をして、唇を噛んだ。
 何か言いたげな目だ。目元が赤く染まって、息を飲むほど色っぽい。
 恭一は順作の顔のすぐ横に腕をついて、覗き込むように間近から目を合わせた。
 厚い眼鏡のレンズの奥で、順作の瞳が揺れる。恭一は囁き声で尋ねた。

「……何?」
「……う、うう……」

 いかにも潤んだ瞳をして、彼は羞恥に頬を染める。揺れる瞳が、理性と本能の間でふらふらしているのが分かる。あとほんの一押しで、彼が本能に従いそうなのが分かった。
 恭一は順作の分厚い眼鏡のフレームにキスをして、こめかみに囁いた。

「してって、言って」
「っ……」

 唇を噛んで、順作がこちらに顔を向ける。間近で目が合う。彼は、問うような目をしていた。

「アンタのこと、笑ったりしねえから」

 そう言って、彼のくっきりとした眉尻にキスをする。キスした拍子にあごが眼鏡のフレームにあたって、順作はかすかに首をすくめて目を伏せた。

「み、……峰岸、恭一、君」
「ん」

 途切れがちに名前を呼ばれて、恭一は口の端で笑った。
 この人に名字と名前を続けて呼ばれるのにすっかり慣れてしまった。何故続けて呼ぶのかと訊いたことはないから、この人が一体どういうつもりでそう呼んでいるのかは知らない。ただ、たった今、そう呼ばれることは嫌いじゃないから、下手に理由を尋ねることはやめておこうと思った。

 ……そういえば、名字と名前を続けて呼ぶのは、自分に対してだけだ。

 ようやく、気がついた。
 たまらない気持ちになった。
 順作は上目遣いになるか伏せ目になるか迷いながら、小さな声で言った。

「……、……て、ほしい」

 本当に小さな声すぎて、良く聞こえなかった。
 何の他意もなく、顔を寄せる真似をすると、順作は呼吸を震わせて、先ほどより大きな声で言った。

「ぺ、……ペニスを、……、っ、愛撫、し、して、ほし、い……」

 息が詰まった。まじまじと彼の顔を見つめる。
 ──あんまりな不意打ちだ。

「……それは、無理だわ」
「え……」








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