青い花の夜の



 しばらく前まで、ベラムは、ウェザイルの世話係を務めていた。だから、彼の癖は良く知っている。……以前のように、彼が世話係という役目を負わなくなってもなお。
 ベラムは、身の回りの世話のほかに、シメオン家の者としての立ち振る舞いや、得るべき知識をもウェザイルに教えてくれた。彼は、病気がちの母と忙しい父の代わりに、まさにさまざまな面で寄り添ってくれたのだ。

 ──だから、シメオン家の恥にならないよう、しっかりしなければ。

 自分がシメオン家の評判を落とすようなことすれば、父や兄、姉の体面はおろか、世話係でもあったベラムの評判も落とすことになる。ベラムをがっかりさせるようなことはしたくない。

「……ウェズ」

 泣きつぶれた枯れた声で名前を呼ばれて、ウェザイルは我に返った。肩を抱いた姉に視線を向けると、姉は真っ赤に泣きはらした目で、弱弱しくウェザイルを見つめていた。

「すこし……疲れたわ。……やすみたい」
「姉さん……」

 ウェザイルは小さくうなずき、抱いた姉の肩に力を入れた。

「分かった。……父上と兄上には、ぼくのほうから、姉さんは休んだと伝えておくよ。……歩ける?」

 ええ大丈夫、と姉はよたよたと歩き出す。ウェザイルは、姉を支えながら、ゆっくり進んだ。確かに、この状態では、部屋でしばらく休んだほうがいい。顔色も悪い。

 歩き出したウェザイルとアリアンに気づいて、周囲が気遣わしげな視線を向けてくる。同情するような囁き声もする。使用人の何人かが案じて声をかけてきたが、ウェザイルはそれをすべて、大丈夫の一言で答えた。大丈夫だ。姉はきちんと、自分が部屋に連れて行く。連れて行ける。心配はいらない。








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