愛され執事とノロケ話



 ──本当に、この方は。

 ベラムは眉を寄せて、顔を伏せて苦笑した。

「……年寄りをからかうのはおやめください」

 小さくため息をついて、ウェザイルから身体を離そうとする。しかし逆に握られた手を強くとられて、指を絡められた。なでるようにして、ウェザイルの手がベラムの白い手袋を乱す。袖口と手袋の間に覗いた素肌に、ウェザイルはキスをした。

「ウェザイル様! 本当に、からかうようなことは──」
「残念。本気だよ」

 ウェザイルは言いながら、ベラムの手袋を取り払った。素肌の手の甲にキスをして、指をちろりと舐める。

「ベラムは快く思わないだろうけど、おれは自分の評判を落とそうが、悪い噂がたとうが、どうだっていいんだ」

 指と指の間を舌でくすぐられて、ベラムは反射的に手を引こうとした。しかし、ウェザイルはそれを許さず、逆にベラムの小柄な身体を抱きすくめるようにして抱えあげた。

「っ……お戯れは……!」
「お戯れでこんなことできる男に育ったと思う?」

 耳元で囁き尋ねられて、ベラムはウェザイルの顔を間近で見つめた。彼の黒い瞳が声の調子の割りに真摯なのを見て、目をそらす。……見詰め合って、敗北してしまう。

「……それをわたくしに尋ねるのは、いささか意地が悪くはありませんか」
「そう?」

 言いながら、ウェザイルはベラムを抱えたまま、近くの壁にその背を押し付けた。ガタン、と壁に飾った絵の額縁が震えた。息をつく間もなく、ウェザイルに唇を求められる。

 ──ああ、だめだ。分かっていながら。

 彼の吐息を感じると、自分で自分がどうにもならなくなる。

 ベラムは、何もかもに負けて、手袋をしたままのほうの手を、ウェザイルの頬に添わせた。引き寄せるよりも早く、ウェザイルが顔を寄せる。背中に硬い壁の気配を感じながら、口をわずかに開く。

「そんなふうに……、求めるようなものではない、でしょう……」

 この老身のどこに、彼をこうさせる要素があるというのだろう。ただの年老いた貧相な体だ。それを、こんなふうに飢えたように求めるものでもない。……若い女や若い男ならまだしも。

 かすかに開いたベラムの唇に、ウェザイルの唇が重なる。ついばむように何度も深く交わって、舌を絡めあう。彼の熱い舌が口腔深くを探れば、そのたびに後頭部が壁に当たった。それに気がついたのか、彼は手のひらでベラムの後頭部を包むように支えた。

 ──その優しさが、たまらない。

 ベラムは彼の頬に触れていた手を、彼の背中に回す。両腕で抱きしめるようにすると、ウェザイルからのキスがさらに深くなった。眩暈を呼ぶような、圧倒的な応酬。

「……っ、……、ウェザイル様、」

 知らず知らずのうちに抱きしめた背中に力が入る。吐息交じりの彼の呼吸が、ベラムの丁寧に揃えた口髭を震わせた。ひどく吐息が熱い。
 何もかもがもどかしいというように、彼は大きく呼吸を乱して、さらに強くベラムの小柄な身体を壁際に追い詰めた。
 額と額をつけて、鼻先を触れ合わせる距離で、吐息交じりの睦言。

「これが、許されないことだとは、おれは、思ってないから」

 ベラムの眼鏡のブリッジに唇を押し当て、彼はベラムのベルトのバックルに手を伸ばした。

「ウェザイル様」

 ベラムは彼のその手に自分の手を添えた。無体をとがめられるのかと動きの止まった彼の手をよそに、ベラムはベルトを外した。
 たがが外れるのは、一瞬だった。
 ウェザイルが息をつく間もなく、ベラムのベルトをつかんで引き抜く。ベラムはその間にズボンのフックを外した。前をくつろげようとするのを、もどかしいと非難するようにウェザイルの手が伸びてくる。少し荒っぽい勢いで、ズボンの中、さらには下着の中に手のひらが滑り込む。

「っ、」

 尻の割れ目を指先でなでられて、ベラムは思わず息を詰めた。驚いて身を固くしたのを、ウェザイルはおびえていると解釈したようだった。はっきりとした息遣いのままで、唇をベラムの耳元に寄せた。

「好きなんだ、」

 吐息が耳をくすぐる。唇が押し付けられるのを感じる。呼吸すら熱っぽく、言葉すら覚束ない。
 ベラムはうつむきがちに、ウェザイルの胸に手をついた。年甲斐もない。恥ずかしい。情けない。

 ──こんなに。

「ベラム、」

 ウェザイルがすがるような声音になる。彼は、未だにベラムが逡巡していると思っているのだろう。壁際に押し付けられるようにして、抱きすくめられる。












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