愛され執事とノロケ話



 そのまま寝室に向かうのかと予想したが、ベラムの予想は外れた。
 ウェザイルは寝室に続く扉の前で立ち止まり、抱えたベラムの背を押し付けた。肘をつくようにして、長いキスをする。
 キスをするたび、木製の扉がガタガタと音を立てる。壁際でキスをするよりも大きな音に、生々しい気持ちをかきたてられてたまらない気持ちになる。キスには荒々しい勢いがあるのに、いたわるようにしっかりとベラムの腰を支えるウェザイルの手のひらが、年甲斐もない感情を呼び起こしてしまう。……たまらない。お慕いしている。心を捉えて離さない。
 深く味わうような、すべて浚うような、名残惜しいキスを終えて、ウェザイルがほんの少し顔を離す。熱い吐息が、ベラムとウェザイルの唇からこぼれた。

「ウェザイル様……、?」

 囁くように小さな声で、わずかに語尾をあげて尋ねると、ウェザイルは何も言わずに近くにあったチェストの引き出しを荒々しく開けた。その中から、手のひらに収まるほどの小瓶を取り出す。改めて何が入った小瓶か尋ねなくても分かる。
 彼は、その瓶のコルク栓を歯を使って引き抜き、吐き捨てた。

「ごめん、……ベッドまで我慢できない」

 瓶の中身を指に取り、ウェザイルがすれた声で詫びる。
 彼の指がベラムの浅い割れ目を滑り、肛門に辿りつく。ぬるりと冷たい感触がして、ベラムは唇を噛んだ。

「っ……」

 くちゅ、と濡れた音が聞こえる。
 ゆるゆると窄まりをなぞられて、ベラムの背筋にぞくぞくとしたものが湧き上がってくる。思わず、ウェザイルの腰に巻きつけた足に力が入る。そのせいで、彼を引き寄せるような形になって、自分がひどい淫乱になったような気がした。

「いい……?」

 もどかしいほどに優しく尋ねられて、ベラムは何度もうなずいた。

「いかに老身といえど、……た、多少のことで壊れたりはいたしません、から、ウェザイル様が望まれるように……、」

 そういう問題じゃないんだよ、とウェザイルが眉を寄せて少しつらそうに笑った。こめかみに顔を寄せて、鼻先で眼鏡のフレームを愛撫する。
 眼鏡にキスしながら、ウェザイルは指をゆっくりと差し入れた。ベラムの体がびくりとこわばる。

「っん……!」
「力抜いて」

 窺うように入り口を広げられて、抑え切れない吐息がこぼれる。極力、傷つけないように彼が気遣って指を差し入れているのが分かる。くすぐるみたいに肛門の入り口を愛撫されて、そこが浅ましくひくつくのを感じた。
 つぷ、つぷ、と浅いところを指が出入りする。窄まりの襞を丹念になでるようにされて、体が震えてしまう。明らかな異物感と、確かな愛撫に体が熱くなるのを止められない。

「……ん、……っく……」

 聞き苦しい喘ぎ声を出してしまいそうになって、ベラムは下唇を強く噛んだ。中の浅いところをかき回される感触に耐えようと、頭を振る。
 陰茎の疼きが耐えられない。確認しなくても分かる。自分の性器は、ひどく勃起しているのだろう。現に、ウェザイルの指が内側をかすめるたびに、ぞくぞくと手ひどい疼きが一点に集まってくる。

「……くっ……!」

 ずぷ、と浅いところを撫でるだけだった指がより深く中に入り込んできた。思わずウェザイルの服を強くつかんで、奥歯を噛み締める。身体がこわばって、ウェザイルの腰に巻きつけた足に力が入る。

「……あ……! っぐ……!」

 一本だけだった指の感触が、二本に増えた。入り口を押し広げられるような露骨な感触。唇を噛み締めていられない。頭を振って、うめき声をあげる。

「っあ……!」

 くちゅくちゅと濡れた音がする。実際に、小瓶の中の潤滑油でそこは濡れているのだろう。肛門に指が滑り込むたびに、なんともいえないぬるりとした感覚がする。
 ちゅく、くちゅ……
 最初は窺うようだった侵犯も、次第に露骨になってくる。指が三本、肛門に入り込んできて、思わずベラムは声を上げた。

「っああ……! はっ……、ウェザイル、様っ……」

 不意に、ウェザイルの手が、勃ちあがった陰茎を握った。

「っ!?」

 思わず腰が引けた。肛門への刺激に気をとられていて、まったく想定していなかった。ベラムの困惑を余所に、ウェザイルの手が皮をずらすように陰茎を扱き出す。

「っひ! お、お待ちくださ、……それは……!」

 圧倒的な快感に涙が散る。言葉をつむぐ余裕すらない。四肢がしびれて、物事が考えられなくなる。じんじんとして、熱い。口を閉じる余裕もない。

「っは、あっ、ああっ……、ああっ! そ、そんな、……!」

 いけない。だめだ。許されない。
 気持ちいい。我慢できない。許されない。

 許されることではないのに、ウェザイルの手は臆することなくそこに触れて、剥けた先を指先でなでるから。せき止めなければならないものもせき止められなくなる。

 ……もっと触れて欲しいと。心地いいと。

 ベラムは、咄嗟に嵌めたままの自分の手袋を噛んだ。噛んだままで手袋を脱ぎ、ウェザイルの背中に手を回す。ぎゅ、と強く彼の服をつかむと、ウェザイルが身体を寄せてきた。ギシ、と背中で扉が軋んだ。
 真っ赤に熟れた先端を、ウェザイルの指の腹が強くこする。同時にくびれもしごくように責められて、ベラムは激しく頭を振った。

「っぐ、……んん、……んん!」

 噛んだ自分の手袋を離してしまわないよう、必死に歯を食いしばって、喘ぎ声を押し殺す。しかし、喘ぎ声を押し殺そうとすればするほど、ウェザイルの手が容赦なく陰茎を責める。

「っん! ……んん……! ……ん……!」

 目の前がちかちかとする。びりびりと突き抜けるような快感が走るたびに、体が跳ねて、背中に接した扉が軋む。

「ベラム……? 気持ちいい……?」
「ん、ぐ……、……、……」

 うなずくようなことができるはずもない。ウェザイルには、浅ましい姿をもうこれ以上見せたくない──
 いじましいベラムの忍苦をあざ笑うかのように、ウェザイルの手が熱く充血した肉棒をしごく。強く握りこむように根元から先までずらすように触れられて、ベラムはたまらず口を開いた。

「っああ……!」

 それまで噛み締めていた手袋が滑り落ちた。それに満足したのか、ウェザイルが耳元で低い声で嬉しそうに笑った。

「声、……殺そうとするからだよ」

 ぐっ、とウェザイルが足と足の間に割り込ませた腰を強く押し付ける。尻の下部に、確かに硬い感触があるのを知って、ベラムはうつむいたまま、ウェザイルの服を強く握った。












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