いろいろあって結婚、 しませんでした



「そ、そうだな、ベラム。私も情けないばかりではいけない。このようにわざわざ当家にお越しくださったのだ。美しい女性には美しいものが似合う。我がシメオン家の自慢の庭を御覧にいれよう」
「ええ、ぜひ、そうしましょう」

 ベラムはにっこりと微笑み、ドレスの女……アージェを見た。
 アージェはいっそわざとらしい微笑みを浮かべて、お庭を拝見できるなんて嬉しいわ、と言った。

 ──庭を見たいとか何とかワガママ言ってたのはそっちじゃなかったですっけ?

 ……と言ってやりたかったが、ベラムの視線に気がついて口を閉じる。

「ウェザイル様。この時刻ならば、バルコニーでお茶をされるのも一興かと」
「……え、面倒くさ……」
「一 興 か と」

 にっこりが心なしか、にっごりと迫力が出てきたような気がする。
 ウェザイルはわずかに体をそらして、小さく何度もうなずいた。

「そ、その通りだ、ベラム。早速用意をしてくれ」
「はい。かしこまりました」

 ベラムは頭を下げ、完璧な所作で音も立てずに客間を退出した。
 恐らく、廊下に控えている使用人たちにバルコニーでのティータイムの支度をするようにと伝えに行ったのだろう。

「バルコニーでティータイムだなんて素敵。ぜひ、ウェザイル様と二人きりでお話したいわ」

 はあ、とため息をつこうとした先で、アージェが微笑みながら言った。

「は。……はあ、ああ、はあ。……素敵」
「ええ、素敵。二人きりで」
「二人きりで」
「ええ、もちろん」

 ふふ、と彼女は小さく笑った。ウェザイルは力なく笑って見せる。
 美しい美しいと連発したが、確かに気品のある美しい令嬢だ。いろいろと事情があるとはいえ、シメオン家の客間に招かれた上ちゃらんぽらんな次男と顔をつき合わさなくてはならなくなったのは同情する。……というより、よりによって、自分みたいなのが選ばれたのがかわいそうだ。もう少し、なんというか、もう少し……あれだ。あれだろう。あれすぎる。

 ──まあ、アージェも由緒正しいクリストン家の令嬢だからなあ。

 だから本気にならざるを得ないんだろう。適当な扱いをすれば双方……当のシメオン家とクリストン家の関係にしこりが残る。
 ウェザイルは、アージェに向かって、ごまかすように小さく微笑んで返した。
 アージェは口元に手を当てて、小さく笑う。
 ああー、とウェザイルは表情を変えずに心の中で嘆息した。


 ……見合いというのはどうにもなあ。







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